「マリアの讃歌」 ルカによる福音書1章46〜55節

 アドベント待降節の讃美歌は94〜98番にあります。95番はマリアの讃歌の言葉そのままです。マリアが節をつけて歌ったかどうかわかりませんが、旧約に出てくる讃歌で最初のものは出エジプト記15:1〜に出てきます。神が海をわけてイスラエルをエジプト軍から助けた時に、民が歌った讃歌です。その時モーセの姉ミリアムが小太鼓を手に取り音頭を取りながら歌った、とあります。またダビデは竪琴の名手で、あれるサウル王の心を静めたと記されている。
 マリアも竪琴ハープを奏でながらこの讃歌を歌ったのでしょうか。ちなみにマリアの讃歌は預言者サムエルの母ハンナが歌った歌(サムエル記上2:1〜10P429)がベースになっている。昔から神をたたえるう歌として受け継がれていたのであろう。マリアはそのハンナの歌に自分のあふれる喜びを重ねて歌ったのである

47「わたしの魂は主をあがめ、 わたしの霊は救い主である神を喜びたたえます。
「あがめる」と訳された原語は「メガリーノー」で、本来、「大きくする」という意味ですが、そこから派生して、「ほねたたえる、尊敬する、目に見えるようにはっきりさせる、身をもって表す」という意味にもなります。
1章49節にも、「大きくする、あがめる」という「メガリーノー」に関係する言葉が使われています。「力ある方が、私に偉大なこと、大きなことをしてくださいました。」の「偉大なこと、大きなこと」ということばは、大きさを表す最大級のことば、「メガ」が使われています。

 マリヤが、自分の魂をもって、主を「あがめ」ようとするその根拠は、一つは48節の「主が自分に目を留めてくださった」からであり、もう一つは49節の「力ある方が、私に偉大なことをしてくださった」からです。マリアが主を「あがめる」のは、すなわち、主を「大きくする」のは、主が私に「偉大なことをしてくださった」ということと深く関わっています。

 「あがめる」の本質は主を大きくすることです。私たちが様々な日常生活を通して、神が私の主、真実な神、救い主なる神が、共にいて下さる方(インマヌエル)、であることを現すことが、あがめると言うことです。しかし、そのことは私たちが何かをするのではなく、神が、あえて弱い、小さな私たちを招き出して、それを成し遂げられる、というのです。先に神が偉大な、大きなことをして下さる。それに呼応するように、わたしたちが神をあがめるのです。

1.聖霊による大いなる神のみわざ
1:49力ある方が、 わたしに偉大なことをなさいましたから。その御名は尊く、
1:50その憐れみは代々に限りなく、 主を畏れる者に及びます。
 「大きなこと」の第一は、「聖霊による大いなる神のみわざ」です。1:35「聖霊があなたに降り、いと高き方の力があなたを包む」という神のみわざです。
一言で言えば「インマヌエル」(神が共にいます)と告知されたとき、マリアは戸惑いました。「どうしてそのようなことがありえましょうか」と。これは不信仰ではなく、どうしてそのようなことが、この身分の低い主のはしための私に、という驚きの問いを表します。
 この時のマリアの応答が38節「(ほんとうに、見よ、)私は主のはしためです。お言葉どうり、この身になりますように。」でした。「はしため」と訳されたことばは、「ドゥーロス」「しもべ、奴隷」を意味します。ここには主のお言葉どおりになる道具として、自分のみを、一生ささげようとする決意があります。「おことばどおり、この身になりますように」とは、神が御計画を実現する器として、私を使って下さい、という献身の心が現れている。

 使徒2章18節には「その日には、わたしの僕やはしためにも、わたしの霊を注ぐ」とあります。今は聖霊の時代です。聖霊は主を信じる者のうちに住み、その者たちをとおして神ご自身のすばらしい御計画を実現なさろうとしています。つまり、マリアと同様に、聖霊がキリストを信じる者たちの上に降り、いと高き方がその者たちを包むのです。これが大きな神の御業です。このことの故にわたしたちも神をあがめるのです。

2.人生に逆転をもたらす大いなる神のみわざ
 力ある神が私たちにしてくださった「大きなこと」の第二は、私たちの人生に逆転をもたらす神のみわざです。御子イエスによってもたらされる変化についてマリアは次のように預言しています。
51主はその腕で力を振るい、 思い上がる者を打ち散らし、
52権力ある者をその座から引き降ろし、 身分の低い者を高く上げ
53飢えた人を良い物で満たし、富める者を空腹のまま追い返されます。
 
この世は、力、能力を持った者が尊重され、そうでない者は疎外されるという傾向があります。御子イエスはそうした世界に逆転をもたらしました。聖書は、「神は、高ぶる者に敵対視、へりくだる者に恵みを与える」方とし、「高ぶりは破滅に先立つ」と述べています。事実、高ぶりのゆえに滅びに至った者がなんと多いことでしょう。すべてのものは神から与えられています。自分の命も健康も、仕事も、必要な衣食住もです。
申命記8:11,17,18に「私たちが高ぶって神を忘れることがないように、注意しなさい。・・・・・あなたは、『自分の力と手の働きで、この富を築いた。』などと考えてはならない。むしろ、あなたの神、主を思い起こしなさい。」との警告があります。 
申命記8:11わたしが今日命じる戒めと法と掟を守らず、あなたの神、主を忘れることのないように、注意しなさい。
   〃17,18 あなたは、「自分の力と手の働きで、この富を築いた」などと考えてはならない。 08:18むしろ、あなたの神、主を思い起こしなさい。富を築く力をあなたに与えられたのは主であり、主が先祖に誓われた契約を果たして、今日のようにしてくださったのである
 使徒パウロは「神は知恵ある者に恥をかかせるため、夜の無学な者を選び、力ある者に恥をかかせるために、世の無力な者を選ばれました。」と述べています。(コリント一1:27)。
 これらの者は皆、御子キリストを宿したから人生が逆転したのです。「御子は、神でありながら、自らそれを捨てて、しもべの身分になり、人間と同じ者になられました。へりくだって、死に至るまで、それも十字架の死に至るまでも従順でした。それ故に、神はキリストを高く引き上げられた(フィリピ2:7−9)」。わたしたちもまたマリアであり、パウロであり、インマヌエルなるキリストを宿す者です。

 3,約束を実現される神のみわざ
54その僕イスラエルを受け入れて、 憐れみをお忘れになりません
55わたしたちの先祖におっしゃったとおり、 アブラハムとその子孫に対してとこしえに
 主がしてくださた「大きなこと」の第三は、神は約束したことを必ず実現してくださるということです。神がひとだび約束したことは、決してわすれません。いつも折りになかった助けの手を伸ばしてくださいます。「私たちは真実でなくても、キリストは常に真実である。キリストはご自身を否むことができない。」(テモテ第二2:13)

 「私の魂は主をあがめ、わたしの霊は救い主である神を喜びたたえます。」


出エジプト記15:1〜
15:01モーセとイスラエルの民は主を賛美してこの歌をうたった。主に向かってわたしは歌おう。主は大いなる威光を現し馬と乗り手を海に投げ込まれた。
15:02主はわたしの力、わたしの歌主はわたしの救いとなってくださった。この方こそわたしの神。わたしは彼をたたえる。わたしの父の神、わたしは彼をあがめる。
15:03主こそいくさびと、その名は主。
15:04主はファラオの戦車と軍勢を海に投げ込み
えり抜きの戦士は葦の海に沈んだ。
15:05深淵が彼らを覆い
彼らは深い底に石のように沈んだ。
15:06主よ、あなたの右の手は力によって輝く。主よ、あなたの右の手は敵を打ち砕く。
15:07あなたは大いなる威光をもって敵を滅ぼし怒りを放って、彼らをわらのように焼き尽くす。
15:08憤りの風によって、水はせき止められ
流れはあたかも壁のように立ち上がり大水は海の中で固まった。
15:09敵は言った。「彼らの後を追い捕らえて分捕り品を分けよう。剣を抜いて、ほしいままに奪い取ろう。」
15:10あなたが息を吹きかけると海は彼らを覆い彼らは恐るべき水の中に鉛のように沈んだ。
15:11主よ、神々の中にあなたのような方が誰かあるでしょうか。誰か、あなたのように聖において輝きほむべき御業によって畏れられくすしき御業を行う方があるでしょうか。
15:12あなたが右の手を伸べられると大地は彼らを呑み込んだ。 15:13あなたは慈しみをもって贖われた民を導き御力をもって聖なる住まいに伴われた。
15:14諸国の民はこれを聞いて震え苦しみがペリシテの住民をとらえた。
15:15そのときエドムの首長はおののきモアブの力ある者たちはわななきにとらえられカナンの住民はすべて気を失った。
15:16恐怖とおののきが彼らを襲い御腕の力の前に石のように黙した主よ、あなたの民が通り過ぎあなたの買い取られた民が通り過ぎるまで。
15:17あなたは彼らを導き嗣業の山に植えられる。主よ、それはあなたの住まいとして自ら造られた所主よ、御手によって建てられた聖所です。
15:18主は代々限りなく統べ治められる。


サムエル記上
02:01ハンナは祈って言った。「主にあってわたしの心は喜び/主にあってわたしは角を高く上げる。わたしは敵に対して口を大きく開き/御救いを喜び祝う。
02:02聖なる方は主のみ。あなたと並ぶ者はだれもいない。岩と頼むのはわたしたちの神のみ。
02:03驕り高ぶるな、高ぶって語るな。思い上がった言葉を口にしてはならない。主は何事も知っておられる神/人の行いが正されずに済むであろうか。 02:04勇士の弓は折られるが/よろめく者は力を帯びる。
02:05食べ飽きている者はパンのために雇われ/飢えている者は再び飢えることがない。子のない女は七人の子を産み/多くの子をもつ女は衰える。 02:06主は命を絶ち、また命を与え/陰府に下し、また引き上げてくださる。
02:07主は貧しくし、また富ませ/低くし、また高めてくださる。
02:08弱い者を塵の中から立ち上がらせ/貧しい者を芥の中から高く上げ/高貴な者と共に座に着かせ/栄光の座を嗣業としてお与えになる。大地のもろもろの柱は主のもの/主は世界をそれらの上に据えられた。
02:09主の慈しみに生きる者の足を主は守り/主に逆らう者を闇の沈黙に落とされる。人は力によって勝つのではない。
02:10主は逆らう者を打ち砕き/天から彼らに雷鳴をとどろかされる。主は地の果てまで裁きを及ぼし/王に力を与え/油注がれた者の角を高く上げられる。」