『ヘロデ王の最後』 使徒言行録12章1〜24節 

 12章は、ステファノの殉教後、10年ほど経ったエルサレムの教会での事件を記しています。
 当時のユダヤの王はヘロデ王。このヘロデは通称、アグリッパ一世(紀元37〜44年)、ヘロデ大王の孫、イエス様が十字架につけられたときに出てきたヘロデ王の甥、アグリッパ王は、37年からユダヤ全土の統治を皇帝カリグラから任ぜられていた。彼は、他のヘロデ一族と同様、権力欲が強く、教会を迫害すれば、自分の人気を増していくのではないかと考え、手始めにヨハネの兄弟ヤコブを殺した。案の定ユダヤ人は喜んだ、ヘロデ王はそれに味を占め、今度は教会の中心人物であった使徒ペトロを捕らえた。彼を殺せば、さらにユダヤ人達は喜ぶだろうとの、浅はかな考えである。

 権力は神のもの(栄光は神に帰せ)
 ローマ信徒への手紙13章には、神に由来しない権力はない、世の権力者の権力は神から委ねられたものである、と記している。その権力をあたかも自分のものであるかの如く誇り、自分を神のように思い上がる者には神の裁きが下るのである。
 これは、権力者だけでなく、私たちに与えられた賜物に於いてもそうである。富、知恵、知識、健康、命、家族、そして愛、寛容、忍耐など、良きもの全ては神から与えられた賜物。もし、これらを自分のものの如く誇り、思い上がり、神をないがしろにするなら、私たちもまた、神に栄光を帰すことをしない者として、滅んで行かなくてはならない。
 それに気づかせてくれるのがイエス様の十字架の贖いです。神は御子の命を賜るほどに私たちを愛された。親が子を愛する時、見返りを求めないように、神の愛は無償の愛である。それによって私たちは本当の愛というものを知るのである。こんな罪深い者をも神は御子の命によって、罪の許しを与えて下さる。ただ、キリストを信じる信仰によって、神の子とされ、神の全ての良きものを相続させて下さる。
 「全ての栄光を神に帰せよ!」といわれるのはそのためである。
 私が今あるのは、イエス様の十字架の贖いの故です、と全てのことに感謝を献げることが神に栄光を帰することになるのです。

 ヤコブの殺害
12:01そのころ、ヘロデ王は教会のある人々に迫害の手を伸ばし、 12:02ヨハネの兄弟ヤコブを剣で殺した。
 ペトロは助けられ、ヤコブは殺された。私たちの生死は全て神の手の中にあるというが、ヤコブの死もそうだろうか。これも、神のご意志だったのか。
 このヤコブはヨハネの兄弟、ガリラヤの漁師、十二弟子の一人。彼は兄弟ヨハネと共にイエス様にボアネルゲすなわち「雷の子」という名がつけられた。二人はイエス様にお願いした。どういうことをお願いしたか、「神の国の最も偉い地位」であった。それに対するイエス様の言葉がこの殉教を預言していた、マルコ10:35ゼベダイの子ヤコブとヨハネが進み出て、イエスに言った。「先生、お願いすることをかなえていただきたいのですが。」 10:36イエスが、「何をしてほしいのか」と言われると、 10:37二人は言った。「栄光をお受けになるとき、わたしどもの一人をあなたの右に、もう一人を左に座らせてください。」 10:38イエスは言われた。「あなたがたは、自分が何を願っているか、分かっていない。このわたしが飲む杯を飲み、このわたしが受ける洗礼を受けることができるか。」 10:39彼らが、「できます」と言うと、イエスは言われた。「確かに、あなたがたはわたしが飲む杯を飲み、わたしが受ける洗礼を受けることになる。 10:40しかし、わたしの右や左にだれが座るかは、わたしの決めることではない。それは、定められた人々に許されるのだ。」
 これから福音のために大切な働きがある使徒を、何故、助け出さなかったのか。生死はすべて神の御手の中にあるなら、これも神のご意思であり、御心なのか。そうです、これがヤコブにとっての「イエスが飲む杯を飲む(=人の罪を代わりに負う)」ということであった。
 神の裁きは、私たちには遅いと思う。しかし、必ず来て、確実になされる。だから、どんな理不尽なことも、自分で裁いてはならない。神に委ねるべきです。(ローマ12:19愛する人たち、自分で復讐せず、神の怒りに任せなさい。「『復讐はわたしのすること、わたしが報復する』と主は言われる」と書いてあります。)

 祈り
 一方、教会はヤコブの死を悼み、続いてペトロが捕らえられた時は、熱心に祈った。大勢の人がマルコの母マリアの家(ペンテコステの時も)に集まって、悔い改め、熱心に祈っていた。しかし、この時はヤコブの死によって、ペトロも殺される、助かる見込は無いと思っていた。おかしなことだが、祈りながら、疑っていた。諦めていた。
 ところが、思っても見ない事が起こった。ペトロが生きて帰ってきたのだ。祈っていた人は誰も信じられなかった。私たちはどうであろうか。たとえトンチンカンな祈りであっても共に集まり、心を合わせて祈ることの大切さを教えられる。

 ヤコブは殺され、ペトロは助け出された。ヤコブの一方の兄弟ヨハネは数々の迫害を通り抜け最も長く生きた。二人の生涯は対照的であった。どちらも福音の前進につながった。神の栄光を現すものとなった。長いか短いかではない。
  
 王の最後 (12:18夜が明けると、兵士たちの間で、ペトロはいったいどうなったのだろうと、大騒ぎになった。 12:19ヘロデはペトロを捜しても見つからないので、番兵たちを取り調べたうえで死刑にするように命じ、ユダヤからカイサリアに下って、そこに滞在していた。 12:20ヘロデ王は、ティルスとシドンの住民にひどく腹を立てていた。そこで、住民たちはそろって王を訪ね、その侍従ブラストに取り入って和解を願い出た。彼らの地方が、王の国から食糧を得ていたからである。 12:21定められた日に、ヘロデが王の服を着けて座に着き、演説をすると、 12:22集まった人々は、「神の声だ。人間の声ではない」と叫び続けた。 12:23するとたちまち、主の天使がヘロデを撃ち倒した。神に栄光を帰さなかったからである。ヘロデは、蛆に食い荒らされて息絶えた。 12:24神の言葉はますます栄え、広がって行った。)
 ヘロデは神の業を信じる事を拒否した。ヘロデは部下の兵士の過失として、処理した。16人の部下の命を犠牲にすることぐらい、何とも思わなかった。ヘロデ王にとって最も大切なことは、自分の権力であった。彼の前に皆がひれ伏すことであった。自分に栄光を帰し、神に栄光を帰すことをしなかった。その時、主の天使がヘロデを打ち倒した。ヘロデは蛆に食い荒らされて息絶えた。
 ヨセフの歴史には「この日にヘロデ王は演説の後、激しい腹痛に襲われて、5日間のたうち回って息絶えた」と記されている。

 自分の地位や名声のために神に仕える使徒を殺し、自分の忠実な兵士達16人も殺し、最後は自分ものたうち回って死んでいった。

 神に栄光を帰することをしない者の最後は惨めである。形だけで、誰も心から看取る者はいなくなる。福音を信じ、、キリストにつながり続けよう。その時、私たちの人生は神によって導かれ、無力な私たちも神に栄光を帰し、神の言葉が広がっていくために用いられるのである。


使徒言行録12章3〜24節
12:03そして、それがユダヤ人に喜ばれるのを見て、更にペトロをも捕らえようとした。それは、除酵祭の時期であった。 12:04ヘロデはペトロを捕らえて牢に入れ、四人一組の兵士四組に引き渡して監視させた。過越祭の後で民衆の前に引き出すつもりであった。 12:05こうして、ペトロは牢に入れられていた。教会では彼のために熱心な祈りが神にささげられていた。 12:06ヘロデがペトロを引き出そうとしていた日の前夜、ペトロは二本の鎖でつながれ、二人の兵士の間で眠っていた。番兵たちは戸口で牢を見張っていた。 12:07すると、主の天使がそばに立ち、光が牢の中を照らした。天使はペトロのわき腹をつついて起こし、「急いで起き上がりなさい」と言った。すると、鎖が彼の手から外れ落ちた。 12:08天使が、「帯を締め、履物を履きなさい」と言ったので、ペトロはそのとおりにした。また天使は、「上着を着て、ついて来なさい」と言った。 12:09それで、ペトロは外に出てついて行ったが、天使のしていることが現実のこととは思われなかった。幻を見ているのだと思った。 12:10第一、第二の衛兵所を過ぎ、町に通じる鉄の門の所まで来ると、門がひとりでに開いたので、そこを出て、ある通りを進んで行くと、急に天使は離れ去った。 12:11ペトロは我に返って言った。「今、初めて本当のことが分かった。主が天使を遣わして、ヘロデの手から、またユダヤ民衆のあらゆるもくろみから、わたしを救い出してくださったのだ。」 12:12こう分かるとペトロは、マルコと呼ばれていたヨハネの母マリアの家に行った。そこには、大勢の人が集まって祈っていた。 12:13門の戸をたたくと、ロデという女中が取り次ぎに出て来た。 12:14ペトロの声だと分かると、喜びのあまり門を開けもしないで家に駆け込み、ペトロが門の前に立っていると告げた。 12:15人々は、「あなたは気が変になっているのだ」と言ったが、ロデは、本当だと言い張った。彼らは、「それはペトロを守る天使だろう」と言い出した。 12:16しかし、ペトロは戸をたたき続けた。彼らが開けてみると、そこにペトロがいたので非常に驚いた。 12:17ペトロは手で制して彼らを静かにさせ、主が牢から連れ出してくださった次第を説明し、「このことをヤコブと兄弟たちに伝えなさい」と言った。そして、そこを出てほかの所へ行った。 12:18夜が明けると、兵士たちの間で、ペトロはいったいどうなったのだろうと、大騒ぎになった。 12:19ヘロデはペトロを捜しても見つからないので、番兵たちを取り調べたうえで死刑にするように命じ、ユダヤからカイサリアに下って、そこに滞在していた。 12:20ヘロデ王は、ティルスとシドンの住民にひどく腹を立てていた。そこで、住民たちはそろって王を訪ね、その侍従ブラストに取り入って和解を願い出た。彼らの地方が、王の国から食糧を得ていたからである。 12:21定められた日に、ヘロデが王の服を着けて座に着き、演説をすると、 12:22集まった人々は、「神の声だ。人間の声ではない」と叫び続けた。 12:23するとたちまち、主の天使がヘロデを撃ち倒した。神に栄光を帰さなかったからである。ヘロデは、蛆に食い荒らされて息絶えた。 12:24神の言葉はますます栄え、広がって行った。